Q. 合格者の話で「問題集は最低でも3回転は回した」というような話を聞き、問題集を回していますが、新しい問題になると、なかなか解けません。数的処理に限らず、何かアドバイスがあればお願いします。
〈今回のポイント〉
・「回数」を重ねる勉強をより有効なものにするにはどうすればよいか。
・「回数」以外に重要なポイントは何か。
《impression × times》
ちょっと寄り道をしながら、話をしてみたいと思います。
あくまで私見ですが、勉強の基本は理解することも含め、正しく「記憶」することにあります。では、記憶はどのように形成されていくか。
予備校講師は「教える」仕事ではなく、「合格できるようにする」仕事だと思っています。そうすると、皆さんによりスムーズに記憶してもらうための工夫を考えます。
色々と認知科学などをかじってみました。自分なりに単純化すると、「impression × times」が記憶の基本だと考えるようになりました。文字通り「印象」と「回数」の掛け算です。
「回数」については、わかりやすいと思います。一度覚えたつもりの内容でも、時間が経過していくのが普通です。時々、読み返したり、問題を解き直したり、回数を繰り返すことによって、定着させます。
(自分の授業を聞いてもらう機会はそのとき1回だけです。なので、レジュメなどの副教材は、読み返してもらうと授業のポイントが思い出せるように作っています。)
「印象」とは、自分自身の頭に刻むインパクトの強さとでも言えばよいでしょうか。勉強に限らずインパクトの強い経験は、一度で忘れられなくなるようなものもあります。
これを勉強で表現すると、「わかった」や「理解できた」というレベルではなく、「腑に落ちた」という感覚に近いでしょうか。
「あー!そういうことか!スッキリした!」という経験を誰しもが一度はしているのではないかと思います。
(授業では、割と同じことを何度も繰り返して強調するのですが、それは一番重要なポイントをどうやって「印象」に残すかを意識するからです。…なかなか難しいのですが。自然科学系のネタ話も「印象」に残すのが目的です)
自分自身の勉強のイメージとして、スムーズにそして確実に「記憶」を定着させるには、「印象」が強く残るような理解をした上で、その印象を「回数」を重ねて思い起こし刻むことが大切だと思います。
《能動的に自分に「印象」を残しましょう》
「問題集を何回も回しているのに、点数が伸びない」という相談をたびたび受けます。先ほどの話を絡めると、timesは足りているので、あとはimpressionが足りない可能性があります。
問題を解いた後、間違えた問題なのに解説を読むだけで終えていたりしませんか? 解くのが初めてならまだしも、解くのが2回目以降で間違えてたということは、解説を読むだけでは足りなかったということです。
言い方を変えると、解説を読んだだけでは自分自身への「印象」付けができていない可能性があります。
また、2回目、3回目と繰り返すにつれて、「ああ、この問題、たしか前に選択肢3で引っかかって、4が正解だったな(理由は不確かだけど…)」のような感じで、問題そのものを覚えてしまっていることもあります。
そのようなときに、そのまま正解を確認して、解説を流すように読んでも「回数」は重ねたことになりますが、「印象」には残らないまま終わってしまいます。
では、どのようにすれば、「印象」に残すことができるのか。ポイントは「能動的」になることです。
いくつか例を挙げてみたいと思います。
・自分が間違えたポイントをメモに書き出す。
自分自身でどこに引っかかったのか、新しくつかんだポイントなど、ノートに書いたり、付箋に書いて貼っておいたりするだけで、印象に残りやすくなります。
・間違えた問題と似た問題を見つけ出して見比べてみる。
例えば、円が3個の図形の問題を間違えたとき、円が2個や4個の問題と解き方を見比べてみると、どちらも同じような解き方をしていることがわかります。自分自身で能動的に共通点を見つけることで、印象に残りやすくなります。
・いつも見ている参考書以外の書籍を読んでみる。
特に専門科目についてですが、法律、経済、政治など、入門書からアカデミックな本まで、様々な本が出版されています。わからないポイントを自分自身で能動的に調べてみることで、「腑に落ちる」感覚を得やすくなります。
同じ時間をかけて勉強をしても、受け身でただの作業になってしまっていると、どれだけ回数を重ねても記憶には残りにくくなります。
問題集を回すという勉強法は「回数」という面では有効です。ただ、うまくいかないと感じている方は、自分自身にどうやったら「印象」を残すことができるのかを考えてみてください。
〈まとめ〉
・記憶には「回数」と「印象」が大切です。
・「回数」の勉強に偏っている人は、自分自身に「印象」を残す工夫をしてみましょう。
・「印象」を残すためには、能動的な勉強を心がけましょう。