数的処理が苦手なんですが、どうすればよいですか?

Q.数的処理がとにかく苦手です。解説を聞けば「なるほど 」と思いますし、一度解いた問題なら解けるのですが、ちょっとひねられたり、新しい問題になると解けません。どうすれば良いのでしょうか?

 

〈今回のテーマ〉
・数的処理の勉強を進めていく際の「学習方針」は何がベターか。
・一通りの勉強を終えてもなかなか点数に結びつかないのはなぜか。

 

《すべての基本は「覚える」こと》

 

 まずは質問をくださった方に一言お伝えしたのは、「大丈夫です」ということ。解説を聞いて「なるほど」と思えて、一度解いた問題が「解ける」。でも、新しい問題は「解けない」というのは、一般的な受験生のレベルです。

 

 数的処理の実力を上げるためのアプローチは様々あります。「数的処理が得意になるためにはどうすればよいですか?」という質問は、「サッカーが上手になるためには?」や「歌がうまくなるためには?」と同じですので、実力向上の切り口はたくさんあります

 

 今回は私の考える数的処理得点力向上の「学習方針」をお話ししたいと思います。まずは以下の本試験の過去問を解いてみてください。

 

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2000の約数の個数として,正しいのはどれか。
1. 16個
2. 17個
3. 18個
4. 19個
5. 20個
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 なぜこの問題を取り上げたかですが、本問は完全に公式を覚えているかどうかの問題です。約数の個数の公式は以下の通りです。

 

 

 数学のこういう表記って、とっつきにくいですよね…。わかりにくいようであれば、次のように覚えましょう。

 

1.まず与えられた数を素因数分解します。
2.次にそれぞれの素数の「何乗」の数字に「+1」をした数を書き出します。
3.書き出した数字をすべて掛け算します。

 

具体的には以下の通りです。

 

 

 よって、正解は5の20個です。

 

 1問解いていただきましたが、次に同じ問題を見かけたとき、これなら解けそうだと思いませんか? この問題が解けるかどうかは、俗にいう頭の良さではなく、公式を「覚えている」か、それに尽きます。

 

 数的処理の問題が解けない理由のひとつはこのように知識や公式を「覚えていない」ことに起因します。

 

 皆さんは「等差数列の和の公式」は覚えていますか? 「2次方程式の解の公式」、「N進法⇔10進法の変換」、「分母の有理化の計算」はどうでしょうか。「平方数」や「2のn乗」、「フィボナッチ数列」で出てくる数字は頭に入っていますか。

 

「一筆書き」ができる条件、「天秤を用いて偽コインを見つける回数」、「油分け算」はどうでしょう。数的推理以外でも、判断推理や空間把握など、様々な分野で知っているかどうかの問題が出てきます。

 

 問題が解けなかったときは、皆さんがお使いのテキストを読み返し、公式などを「覚えている」かどうかを必ずチェックしてください。実は苦手なのではなく、覚えていないだけかもしれません。

 

 問題が解けなかったとき、解けない理由を明確にすることは得点につなげるために非常に重要です。考える力が必要な難問が解けないのと、知識がないから解けないのでは、全く違います。

 

 数的処理が苦手な方は、まず覚えれば解ける問題を確実に得点に結びつけましょう。

 

フリー写真素材ぱくたそ

 

《考え方でさえも、実は「覚える」こと》

 次はこちらの1問を解いてみてください。

 

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周囲1kmの池のまわりをAとBの2人がそれぞれ一定の速さで歩いた。同じ場所から同時に出発し,それぞれが反対方向に回った場合は6分ごとに出会い,同じ方向に回った場合は30分ごとにAがBを追い抜いたとき,Aの歩いた速さとして正しいのはどれか。
1. 時速4km
2. 時速4.5km
3. 時速6km
4. 時速7.5km
5. 時速8km
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 今回の問題は、公式を覚えているかどうかとは、ちょっと違うようです。では、勉強を重ねた多くの受験生はどのように解くかというと、「あのパターンだな」と頭に浮かべて問題に取り掛かります。

 

 まずは解説をしてしまいましょう。本問は旅人算と呼ばれる問題の、最も典型的な問題です。過去には23区(特別区)でも平成17年度に出題されています。

 

 私の場合、旅人算のポイント(着眼点)は以下のように説明します(こういう部分が講師の腕の見せ所)。

 

 旅人算…「距離」の「和と差」に注目して解く!

 

 一般には旅人算のポイントは「速さ」の「和と差」と言われることが多いのですが、個人的には上の形が好きですね。講義では速さの問題そのもののポイントとして、「絵を描く」ことも挙げています。セットで説明しましょう。

 

 具体的な速さ、距離、時間などの数値の話は、ひとまず置いておきます。色んなことを一度にやろうとするのではなく、今回であれば、まずは状況把握を中心に考えます

 

 問題文から「同じ地点から反対方向に回った場合は6分で出会う」ようなので、とりあえず「出会う」状況を描いてみましょう。なお、「追い越す」設定からAの方が速いことも注意してください。

 

 

 どうやら、どの場所で出会うにしても、AとBの移動した「距離」の「和」はちょうど「1周分」になるようです。

 

 次に「同じ方向に回った場合は30分でAがBを追い抜く」ようなので、今度は「追い抜く」状況を描いてみましょう。

 

 

 ちょっとわかりにくいですね。ただポイントは「距離」の「和と差」に注目して解く!でした。「和」は何も出できそうにないですが。「差」は…

 

 

 今度は「差」に注目すると、AとBの移動した「距離」の「差」がちょうど「1周分」になるようです。

 

 解説をしてしまいましょう。Aの分速をa、Bの分速をbとすると,「出会う」ときにAの移動した距離は「速さ×時間」でa×6=6aになり、Bの移動した距離は6bになります。これを足すと、「1周分」の1kmでしたので、6a+6b=1が成り立ちます。

 

 同様に「追い越す」ときは、Aが30a、Bが30b移動し、差は「1周分」の1kmでしたので、30a-30b=1が成り立ちます。

 

 あとはこれを連立方程式で解くと、a=1/10、b=1/15になります。今回は分速(1分当たりの移動距離)ではなく、時速(60分当たりの移動距離)ですので、時速に置き換えると、(1/10)×60=6[km/h]になり、正解は3になります。

 

 典型的な1問で解説をしましたが、旅人算のポイントはどんな問題でも同じです。

 

・「出会う」や「すれ違う」設定 
 → 「距離の和」に注目。

 

・「追いつく」や「追い越す」設定 
 → 「距離の差」に注目。

 

 もし、すでにある程度、勉強が進んでいる方は、今まで解いてきた旅人算の問題を上記のことを意識した上で、もう一度、解き直してみてください。「ああ、この問題も同じように解けるのか…」と思ってもらえるはずです(問題の解き方は好みの部分もあるので、これに限らず、解ければどんな方法でもオーケーです)。

 

 今回の旅人算のポイントのように、「知識」や「公式」だけではなく、「着眼点」や「解法パターン」を「覚える」ことも、数的処理においてはとても重要です。

 

 私の場合、数的処理の講義は、様々なテーマについて、このような解法パターンや着眼点を紹介を中心に組み立てています。

 

 数的処理が苦手な方は、センスを身に着けるとか、柔軟に考えるというような曖昧なものよりも先に、あらゆる問題の「解法パターン」や「着眼点」について、しっかりと「覚える」ことを意識してみてください。

 

《「覚える」ことが大事と実感。そして次は「使える」ように》

 

 ここまで偉そうに色々と書いていますが、私自身も数的処理を離れれば、皆さんと同じです。ここ3年くらい将棋というゲームをやっていますが、負けてばかりでへこむことばかり。

 

 最初は、正直、頭を使う仕事をしているし、少しはセンスがあるかなんて思ったのですが、そんな軽い気持ちはすぐ粉砕されました。…先日、学生に誘われて指して、ぼこぼこにされました。

 

 ただ、そんな下手くそですが、自分の中でちょっとブレイクスルーが起こったときがありました。定跡と呼ばれる基本戦略と手筋と呼ばれる技をある程度「覚える」ことができたときです。そして、それを実戦を通して、より「使える」ようになったときに少し強くなったと思います。

 

 やはり何事においても、自分の頭でゼロから生み出すのは大変で、ある程度、他の人が考えたパターンを「覚える」ことが、成長の近道だなと実感しています。あとは試行錯誤しながら、「使える」ようになること。これは数的処理の勉強にもつながることなので、後日、機会をあらためて書きたいと思います。

 

 将棋のプロ棋士が「定跡」を生み出すように、自分自身は数的処理のプロとして、より良く使いやすい「解法パターン」をこれからも作り出していければと思っています。精進しないとですね。

 

〈まとめ〉
・「公式」などの知識をまずはしっかりと覚えましょう。
・様々な問題について、「解法パターン」と「着眼点」を覚えましょう。
・「覚える」ことができたら、問題演習を通して「使える」ようになりましょう。