数的処理勉強法概論

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これまでの何度か数的処理の勉強法についてお話をしてきましたが、より「抽象的」で「全体的」な話をしてみたいと思います。

教える立場としてみると、数的処理という科目は非常に厄介な科目です。基本的には小・中学生レベルの知識で足りるにも関わらず、解くとなると難しい。ですので、「知識」以外の部分を教えることが大切になります。

そして、問題の解法も画一的であれば良いのですが、様々なアプローチの仕方が考えられます。

他の予備校の講師も含めて、見知った数的処理の先生方と勉強会をするのですが、本当に面白いもので、同じ問題であっても、解き方のアプローチは違い、毎回「なるほど」と唸らされることも多いです。

そうすると、自分自身の授業も、「今までの教え方とどちらが良いのだろう…」と影響が出てきます。

手元にある過去問から類題をなるべくたくさん探し出して、Aという解き方とBという解き方で、どちらがより良いのかを自分で考えて皆さんに提供をしています。

このような繰り返しをしていますので、実は毎年教え方が変わっています。外から見れば、非常に細かい変化なのかもしれませんが、自分の中では大きく変わっており、10年前とは全く違っています。

では、教える立場として、何を目指して細かい修正をしているのかというと、それは「汎用性」と「ユーザビリティ(使いやすさ)」のある解法を、より「理論的」に構築することにあります。

ちょうど、将棋の本を読んでいたところ、興味深い記述があったので、そちらを引用しながら、話を進めていきたいと思います。

 

 

−棋士の感覚はそれまで棋士がその局面に対して、そして将棋に対して培ってきた経験がその棋士に語りかけるものであるのに対して、理論はそれまで行われた多くの将棋からその共通部分を抜き出して明言化してできたものである。感覚がより細かい部分をカバーするのに対して、理論は大雑把にその戦法を把握するに過ぎないが、しかし明言化される分伝達しやすい。

糸谷哲郎著『現代将棋の思想〜一手損角換わり編〜』(以下同様)

 

教える立場でありますが、中学受験の問題などで難題に取り掛かるとき、私は「感覚」で解いていることが多いです。これはそれこそ小学生の時から変わりません。

先ほどもお話しした通り、数的処理という科目は、教えるべき「知識」は少なく、それ以外のともすれば「感覚」的な部分を教えることになります。

私自身の感じる「一目で、とりあえずここに補助線引きたいよな」とか、「まあ、この感じだと、場合分けでいけるな」とか、そんな感覚(本当はもっと細かいですが)を、授業でそのままお話しするわけにはいきません。

そこで、ある特定のジャンルの問題について、共通部分を抜き出して、明言化(言語化)することで、「感覚」ではなく「理論的」に捉えてもらえるように工夫をします。

 

−その戦法の感覚は一両日で身に着くようなものではなく、また説明として簡単に言語化出来るようなものではない(恐らく究極的にも言語化し得ない)。であれば、その戦法に関しての理論を説明した上で手順を説明し、感覚を身に着ける為に並べていただく+指していただくことが最も良い説明となり得るのではないだろうか?

 

知識系の科目とは異なり、記憶力ではなく、「思考力」が問われる数的処理は、スポーツや演奏にも似た「慣れ」の部分があります。

あるジャンルの共通部分を理論的に捉えたら、今度は身につけるために、解説をなぞって自分で解いてみた上で、類題を自分自身の力で解いてもらうのが、最も力のつく勉強法だと思います。

ある1問に対して、自分自身の力だけで解くのが厳しい方は、その1問の解説を読むのではなく、テキストや過去に解いた類題を見て解き方を参照しながら、粘り強く取り組んでみましょう

 

−理論の理解は感覚ほどズレが生じにくい。加えて、理論を学ぶことは感覚を学ぶより容易に達成し得る性質のものである。故に、感覚的なものを学ぶことの一助として理論が有用であるということが言えるだろう。

 

最初から「感覚」を掴むのは難しいですが、まずは「理論」を学び、繰り返していくことで、「感覚」も身に着くようになっていきます。「理論」→「感覚」の順になることが理想です。

私自身は講義や著作などで、「より幅広い問題で使える汎用性が高くて、受験生の皆さんが使いやすい(ユーザビリティ)アプローチ」を意識して理論的な解法を構築していくつもりです(まだまだ、新しい気づきがたくさんありますが…)。

その「理論」を学んでいただき、繰り返して問題を解くことで、皆さんにも数的処理を解ける「感覚」を身に着けてもらえればと思います。